福島原発事故による放射性汚染水

東京-2018年10月25日
2018年7月12日共同通信は2011年3月の福島第一原発事故以来増加する一方の放射性汚染水の処分方法として、日本政府が基準以下に薄めて海洋放流する方針であることを報道した。蓄積し続ける汚染水が含有している放射性核種は水から分離できないトリチウムのみと発表。経産省の見解としては、トリチウムの半減期は12年と比較的短い上、薄めれば健康への影響はほとんど無視できるとしている。実質的な危険性からの反対ではなく風評被害を問題としている地元の漁業組合や地元住民からの理解を得るために、8月末には市民からの意見聴衆会を開くとも発表した。
福島原発集団告訴団の原告人、脱原発福島ネットなどの団体、環境保護団体、科学者たちは即反対の意思表明をした。福島原発汚染水の海洋放流に反対する主な理由は、以下の三点に絞られる。
✦山田耕作を世話人とする市民と科学者の内部被曝問題研究会有志及び内部被曝を憂慮する市民と科学者 は海洋投棄の反対理由としてトリチウム水の危険性を上げている。詳細は決議文を参照のこと⇒

✦朋・アミーチは福島の汚染水がトリチウム以外の放射性核種を必ず含んでいると判断した。福島の汚染水は原発の通常稼働で生じるトリチウム水ではないからである。福島第一原発の1号機から4号機までの原子炉四基の冷却装置は地震と津波により停止した。最終的には大量の海水が注入されたが1,2,3号機はメルトダウンを起こす。運転停止中だった4号機の使用済燃料プールには、1331体の使用済み燃料棒を蓄え冷却中であった。現在までに蓄積された100万トンに近い福島第一原発の汚染水とは、メルトダウンを起こした炉心や使用済み燃料棒に触れた水、福島原発事故の処理のために使われた水が多種多様の放射性核種を含有していない筈はない。
現に、2011年3月31日、事故から2週間余りの時点で東京電力は地下水から最高で安全基準の1万倍、430ベクレル/ccのヨウ素131を検出したことを明かした。
しかし、現在では東電側も日本政府も、高精度の機能を持つ浄水装置により、放射性物質は全て除去され、水と同位元素であるため水と分離できないトリチウムだけが残っていると主張する。そこで朋・アミーチは東電のサイトを調べてみた。東電のホームページの記載によると、最新式の浄水装置が稼働し始めたのは、2015年からと明記されている。逆に言えば、2011年3月から2015年までの4年間に使用された浄水設備は完ぺきではないという事。同じく東電のサイトには、2015年以降現在に至るまで何度もあったと言う水の漏えい事故の記載があるだ。つまり、事故処理に使われた後の水の管理さえ出来ていないことを示している。
100万トンに近いタンク内の水には他の放射性核種が含まれているとは朋・アミーチの確信に近い推測であったが、8月半ばに発覚した事実は、大きく推測を超えていた。
2016年以降の処理水は完璧な汚染水処理装置によってトリチウム以外の放射能は完全に除去された筈であった。ところが、処理された水の放射能汚染度はそれ以前のものより高かったのだ。8月末の経産省主催の公聴会に参加した福島原発集団告訴団の団長武藤類子さんや人見やよいさんも福島原発事故の汚染水の海洋放流に強く反対する意見を述べた。地元住民、フリーランスのジャーナリストや脱原発グループの追及のおかげで9月末東電側もそれを認めるに至った。
✦経産省・日本国政府や東電は「風評被害」と言う言葉を頻繁に使う。海洋投棄が問題になるのは、福島漁業組合の漁業海域にとどまり、トリチウムは薄めれば殆ど人体に影響はないので、ただの風評対策を講じればよいという考え方が基盤にある。
少なくとも、これで世論への説明が付くと信じ切っている様だ。
しかし、上記の二点の説明で汚染水が無害でないことを知った。ただ、たとえ福島原発汚染水が有毒液だとしても、それが一か所に厳重に保管されていれば人体への影響を危惧する必要はない。だが地球上の海は一つ、海は繋がっているのだ。福島県の海に有毒水が放流されると、被害をこうむるのは沿岸住民と福島県の海で漁獲された魚を食べる人だけ、などと言う論理が通じるはずはない。
また、海流を考慮に入れれば、福島県沿岸で垂れ流された汚染水は、九州南部に到達するより前にカナダ西岸に到着する。汚染水の放流は、福島県漁民の問題ではなく、世界中に生息する人類を含めた全生物の問題なのだ。
日本政府が福島汚染水の処分方法として海洋放流を選択しつつあると知った後、朋・アミーチは世界中からの反対運動が高まれば、日本政府も断念せざるを得ない、と踏んだ。そして、資料をイタリア語に訳し、これまでにあった放射性汚染水に関するイタリアでの報道を整理して可能な限りイタリアの報道関係者に情報を送った。残念ながら、どの情報機関からも回答も質問もなかった。日本は遠い。日本沿岸の水が地中海まで届くには何か月、何年かかるだろうか。日本人でさえ、福島は遠い他県、ましてやイタリア人にとっては、海路で行けば地球の反対側よりもっと遠い。イタリア人に伝えることをあきらめてしまった10月20日、イタリアの新聞に「日本、何万トンもの放射性液を海洋に放流する方針!!」の見出しで、地元民や中国や韓国台湾らの近隣諸国の環境保全団体が反対しているという記事が掲載された。
それらを読み比べてみると、ニュース源はただ一つ、イギリス日刊紙テレグラフが日本政府内部の関係者からの情報を得て掲載した記事を元にしている事が分かった。テレグラフの報道は、ほぼ正確に現状を伝えている様子だが、殆どのイタリアの報道機関は、各社ごとに簡略化して、汚染水の影響範囲をアジアの日本の近隣諸国にとどめているのである。海流による距離では、台湾はカナダよりはるかに遠いのに、その辺を全く理解していない。空気も水にも国境がないことをなぜ認識しないのだろうか。   海流の動き方⇒
地球上の生物の運命は一つであることを理解してもらうまでの道のりはとてつもなく長いことを実感させられた。(文:和田千重)